ダイヤモンドとアメジスト

祖母の四十九日と叔父の一周忌、叔母の三回忌、祖父の十七回忌の法要のため北海道へ再び帰省してきた。

羽田空港から出発する時、搭乗口付近でトイレに入ったら、トイレットペーパーホルダーの上に指輪が忘れられているのに気づいた。ダイヤモンドのようだ。まるで異次元からやってきた物体のようにその指輪はそこに存在していた。そっと手に取ってみる。一瞬NOBUYAの顔がふと浮かんで、なんだかドキドキしている自分がいて可笑しかった。指輪をカウンターに届けてそのまま飛行機へ乗った。座席に着いて「NAO」にメールする。「きっとこの旅が素敵になるっていういい兆しだよ……いってらっしゃい!」

彼女の予言通りこの旅は本当にディープな学びの旅となった。親、兄弟、親戚。亡くなった人達を忍んで集う身内の貴重な機会。「誰もがいつかは死ぬ」という当たり前の事実と、残された者達はそれからもまた、引き続き日々の暮らしを営んでいくという事実。そして、こうして親戚となって顔を合わせているというご縁。集まった親戚とのこのご縁にあらためて思いを馳せた貴重な時間。おばあちゃんからの贈り物だった。

ドンは家でお留守番でこの間「HARUNA」と「YUKA」が「UME」の強力なサポートのもと交代で面倒を見てくれていた。私が居ないのをいいことに、ドンがとんだ出来事もしでかしてくれて……。すべてが私の責任なので彼女達には本当にお世話になった。そしていつもながら「KENTA」や「NAO」にも。HARUNAとYUKAは「私達とドンちゃんはここにいるけど∀は北海道でNAOは屋久島でKENTAは大分。それぞれ違う場所にいるんだけど、でもずっとつながっていて、みんなの愛をいつも感じてとても心強かったよ」と言ってくれるのだった。ありがとう。

そんな中、こちらはこちらで妹の「FUMI」や旦那の「ヒロ」さん、阿寒で暮らす「Ague」や「EMI」の家族。大好きな仲間達、北海道へ移住した「TABA」やパートナーの「YUKIO」さんにお世話になり沢山の優しさと元気をもらっていた。そして「ドンも今年は9才になるんだったな」と思うと「ドンが元気なうちに北海道へ帰ろうぜ!」と言っていたNOBUYAの言葉がふとよぎった。今回の旅で初めてそのことをちゃんと意識できたような気がした。「確かにドンにとっての最後の土地は、彼が伸び伸び自由に駆け回れる野山が理想だよな…」ってね。

法事が終わって家で着替えてからFUMIとNOBUYAの実家へ挨拶に行った。「こんにちは。法事で帰ってきて今終わったとこなんです。これお土産です」私達の顔を見て明らかに驚いている様子のお父さんとおばさんの「良子」ちゃん。「実はねNOBUYAの母親が亡くなってさっきお骨にしてきたところだったの…」「えぇっ!…」NOBUYAのお母さんは彼が小学生の時に家を出て行ったきりだった。「母さんの選んだ人生だから何もいうことはない」とNOBUYAは言っていたけれど気になっていたはずだ。だから今、2人が肉体を離れて魂として自由に交流しあい、ただ愛の中にいるということを想像すると「NOBUYAほんとによかったねー。安心したね」と心からそう思うのである。「兄弟にも知らせずにひっそりと済ませてね。やっと肩の荷が降りたような思いさ…」お父さんが微笑みながらポツリとつぶやいた。その顔はとても穏やかだった。「オレは父さんを一番尊敬しているんだ。」そう言っていたNOBUYA。彼はきっと身の回りの色んなことを、整えてどんどんクリアにしていってるのではないだろうか。

「おばあちゃんの形見があるからみんなで形見分けしてね!」アクセサリーやカバン、衣類…。おじちゃんの手からちらばったその中でキラッと目を引くものがあった。それはアメジストの指輪。おばあちゃんがこの指輪をはめているのを見たことがないから相当昔のもののようだ。他にも指輪はあったのだけれどなぜかその指輪に心惹かれる。アンティーク調の華奢で繊細な作りのその指輪をそっと手に取ってみた。「あれっ?このデジャブのような感覚って…そうだ!来る時飛行機に乗る前にこうしてトイレでダイヤモンドの指輪を持ったのだ!」自分ではあの場所とこの場所がまるで時空を越えてつながっているかのような不思議な錯覚を覚えた。そして奇遇にもダイヤモンドとアメジストはNOBUYAが好きな2つの鉱物だ。

きっと茶目っ気たぷりなNOBUYAのいたずらだったのかもしれないね。