「オオカミサマ」

秩父の三峯山に狼がご祭神の三峯神社がある。

2対の狼が向かい合った護符で有名だが、その参道の奥に「ちどりや」というお店があって、ここはもともと三峯神社の参道茶屋の元祖として古くからそこに存在していた。
現在は昔の雰囲気を残しながら店内が素敵に改装されカフェとしてオープンしている。名前がちどりやのままなのがいい。その店の店主「ブーチン」の心意気が感じられるからだ。NOBUYAが生きていた頃も何度かこの神社には訪れたことがあった。DONの母親のnociwの時代からで、やはり我らの愛犬が狼の血を引いているということが最大の理由だった。だがその当時は今のちどりやはまだオープンしておらず、昔のちどりやの存在にも私達は気づいていなかった。nociwと一緒に山を散歩して当時あった境内の温泉に入って帰るというものだったから。

ところがNOBUYAが旅立って2年後の2019年の8月8日に、突然あるファンのカップルのお2人に「どうしても∀さんとDONをお連れして会わせたい方がいるんです!」と連れて行ってもらったのがこの三峯神社参道にあるちどりやで、会わせたい方というのがブーチンだった。2人はその前の年に三峯神社とオープンしたてのちどりやを知り、すっかり三峯とちどりやのファンになってしまい、しょっちゅう通っては、たまにお店を手伝うようにもなっていて、訪れる度に「あぁ、ここに∀さんの絵があったらピッタリなのになぁ」と思っていたのだそうだ。その熱い思いをブーチンに伝え絵を見せると「おぉ、これは!ぜひお会いしたいです」と言ってくださって対面することとなったのである。しかもそれから、ポストカードや絵のプリントなどをお店に置いてくださり「よかったら店内の壁に絵を飾りませんか?」ということになったのだった。あれよあれよという間の出来事だったがファンのお2人にとっては思い描いた通りの展開だったらしい。

でも別にそこはギャラリーでもなんでもないし、店内にはむしろ色々な雑貨やこだわりの食料品などがあり、壁に絵を掛けていたとしてもそんなに目には留らないだろうなと思っていた。ところが折りにふれ、ぽつぽつと絵を購入してくださる方が現れ始めたのである。今年はまさに私の誕生日に、仲間達と集まってお祝いの食事会に行っている時にブーチンから電話がかかってきて「∀さん、おめでとうございます!」と言うので「あれ?誕生日だって知ってたのかな?」と思ったら「たった今、絵が売れました。それも初めていらっしゃったお客様です!」というお知らせをもらい「わぁーっ神様ありがとう!」と感動したり、夏至の日にやはり仲間と集って祝って帰って来たら「今日ちどりやで作品を購入させて頂いた者です」とお客様からメールが入っていたのだ。その方は作品を家に持ち帰る前に三峯のお気に入りの場所にその絵を置いて思い出に写真を撮ってくださっていた。

本当にこの山には神気溢れるという言葉がピッタリのエネルギーが漂っている。ファンのお2人に案内されて山で腰かけていた時も、あまりにも気持ちがいいのでその場でインディアンフルートを吹いていたら、どこからともなく優しい風が吹いてきた。するとDONが遠吠えとともに唄い始め、しばらくの間厳かな気が辺り一面に漂っていたのだった。かつてこの山に棲息していた狼達の気配を感じた瞬間だった。

そして今日の朝、山を下りていつものようにDONと街を散歩していたら、たまに会って挨拶を交わすお爺さんと出くわした。いままでは単純に挨拶を交わすだけだったのだが、
今朝はなぜか「あんた、どこに住んでるんだい?」と聞かれ「根本山です」と答えると「あぁ、あの山に一軒だけ建ってるあの家かね?」と、こんな話をし出した。「もう大昔のことになるけどなぁ、あの山には沢山の野良犬が棲んでいたんだが、群れでもよく統率が取れていて、決して街までは下りてこない賢い奴らだったんだよ…」と。
私はその話を聞きながら、この山で暮らす狼の群れを想像してしまった。初めて耳にした話だったが、なんだかとても嬉しくなって、DONと今ここに暮らしていることが本当にご縁なのだなと思えてしかたなかった。それだけで、この山でDONと2人きりで過ごすことにとても大きな安心感を覚えた。

根本山、これからもどうぞよろしく!