「シヴァ」

今年も年が明けてから2週間、北海道へ帰省の旅をしてきた。

毎回訪れる場所は実家の余市、札幌の友人宅、津別の友人宅、そして妹夫婦が暮らす富良野となっていて、その富良野には我が家のオオカミ犬DONの兄弟である「シヴァ」がいた。そのシヴァが昨年のクリスマスより体を壊し、自宅で最後の緩和ケアをしていたが旧暦新年のこの日、虹の橋を渡っていった。私がこの旅の最後に富良野に滞在した5日間はシヴァとともに過ごすことができ、彼の旅立ちは私が出発した3日後のことだった。妹から話を聞いてはいたが、今回シヴァに会うことにとてもドキドキしていた。もう散歩には行っていないとのことで、1年前のやんちゃなシヴァを思い出すと切ない気持ちになった。「視覚的にショックを受けるだろうか?」私はある意味覚悟を持って妹の家にお邪魔した。すると寝ていたシヴァが急に立ち上がって歓迎してくれたのだ。「おぉっ。お姉ちゃんが来たら立った!」と2人もビックリ。そこにいたシヴァは以前と何ら変わらない、純粋で美しい姿のままの王子のようなシヴァだった。着いた日はよろよろと歩いて水を飲んでいたが、あくる日にはそれができなくなり…とすごい早さで変化が訪れていた。彼らは人間の6倍の早さで生きているのだ。だが、妹夫婦の24時間体制の献身的な愛の働きによって、3人が一致団結して「最期の瞬間まで一緒に楽しもう」という空気が流れていて、そこにはまるで切迫感がなく、とてもシャンティな時間が流れていることに深く感動したのだった。シヴァは本当にプリンスのように大切に大切に育てられてきた。妹夫婦はその間一度も喧嘩をしていないのだ。「そういう家庭にいると、こう育ちます!」というお手本のような、内側からピカピカに輝いているオオカミ犬だった。うるうるとしたガラスのように丸くて大きな瞳が特徴のシヴァ….。妹は「シヴァの前では泣かない」と言っていたが2人で温泉に入った時だけは泣いていた。私にはシヴァやDONの母親であるnociwを看取った時の経験もあるので彼女の気持ちが痛いほどわかった。ましてや「今、目にしているこの光景は自分にも起こりえるのだ」という視点で見ると、すべてのことが大いなる貴重な学びの場だった。私が富良野を発つ朝、シヴァは急に私の顔をベロベロ何度も舐めてきた。「ありがとうって最後のお別れを言ってるんだね」と妹、私にもそれは伝わってきた。そして出発する時「ありがとうシヴァ!」と声を掛けると、プリンスは振り向いて「ニコッ」と笑ってくれたのだ。そのスマイルがいかにも彼らしく…。

この帰省の旅中、我が家のDONは屋久島から親友夫婦の夫の方の「健太」が来てくれてお世話をしてくれていた。彼のお陰で帰省中も安心して過ごすことができ、本当に感謝だった。DONも最初の2日間はいじけていたらしいが、そのあとは健太との生活をとても楽しんでいたとのこと。実際2週間ぶりに会ってみると、とても穏やかで元気なのがわかった。「なんか毛ツヤもよくなったと思わない?」と自慢げな健太。そして「オオカミ犬DONと2人で暮らす」という今回の初めての経験を健太は「DONとの関係性がより深くなって、色んなことを気づかせてもらった貴重な体験になったよ」と言ってくれた。「なかなかこんな体験はしようと思ってもできないからね」と。こういう友人を持てたことが何よりありがたいと思った。帰宅した私の顔を今度はDONがベロベロ舐めてくれた。そしてクンクンといつまでもシヴァの匂いを嗅いでいる。生と死はとなりあわせだ。私はあらためて「限りあるDONとの時間を大切に生きよう」と思いながらDONを強く抱きしめた。旧暦の大晦日。健太と富士山へDONの散歩に出かけた。開けた場所に着くと声が反響したので思わず「シヴァありがとう!愛してるよ!」と空に向かって大声で叫んだ。すると天から美しい粉雪がハラハラと舞い降りてきた…。「届いたよってことじゃない?」と健太。自然はいつでももこうして見せてくれるのだ。

旧暦元旦の夜、寝室で寝ていたDONが急にリビングに出てウロウロし出し落ち着かなくなった。その後すぐに妹から電話がきたのだ。「さっき、シヴァが旅立ちました….」
「もう、いくらでも泣けるね…」と彼女のことを思った。一ヶ月の間、熟睡することなく一生懸命にやってきた妹夫婦。そんな2人に最初から最後まで愛されてシヴァは本当に幸せだったね。

ありがとうシヴァ。心から愛と感謝をこめて。