「DON」

我が家の愛しきオオカミ犬DONが突然の大手術と入院という犬生初の経験をした。

それは友人「なお&あやか」の結魂式がキャンプ場で開催されることになり、DONの犬友「茶太」とその飼い主「タマ」と一緒に4泊5日の行程で参加した直後のことだった。キャンプ場では式に参加した人々の中に犬連れの方々もいて、DONも最初から大興奮。その中でも2匹のメス犬に恋をしてしまい、1匹目のメスに2度アタックするも見事に振られ、2匹目のメスとは最初うまくいきそうだったが、やはりつれなくされてしまうという顛末だった。それでもまったくめげないDONは元気いっぱいで、参加していた大人達や特に沢山の子供達に大人気でいつも誰かに撫でられていた。日課通り朝夕と2度の散歩に出かけたが珍しくすぐに帰りたがった。キャンプ場に戻りたいと言うのだ。それほど彼にとっては魅力的な環境だったのだろう。オオカミは群れで暮らしているからかDONもやはり群れは好きなのである。

そんな楽しい日々を過ごしてキャンプ場を後にした帰り道に私達はみんなで温泉に立ち寄った。車に戻り待たせていた犬達を一度出して少し歩かせオシッコをさせていざ出発しようとしたらDONが車に乗ろうとしないのだ。キャンプ場を出る時はいつものように軽々飛び乗ったのに。もっと歩きたいのかとも思ったがすでに夜だったしなんとか乗せて家へと帰った。ところが今度は家に入ろうとしない。しばらく外で休ませていたが家で寝ようと中へ入れた。するとすたすたとアトリエの部屋で横になったので「やっぱり5日間興奮し過ぎて疲れたんだな」と思いそのまま寝ることにした。朝、散歩に行こうとするといつもより少しテンションが低かったがそれでも出かけるというので街へと下りた。草を食べて2度吐き戻ししたが、これはたまに自分でやる胃腸の調整作用なので問題ないだろうと思った。が山を登って家に着くといつも休んでいるMother treeの樹の下で休んでいたいと言った。タマがこの日たまたま仕事を休みにしていたのでDONの様子に何かあったらすぐ電話するからと連絡を取り合った。彼は疲れた時には度々Mother treeの下でゆっくり休んでチャージしていたので今回はよっぽどだったんだなぁと思っていた。

午後の散歩の時間になり、まだ外にいたDONに声をかけると最初は行かないと言ったので「えっ!」と思ったが、すぐに立ち上がって歩き出したので「なんだ。行くんだ」と安心して街まで下りた。ところがあることに気づいたのだ。普段マーキング王のDONが一度もオシッコをしてないのである。朝は普通にしていたのに。「これはおかしい」とお腹を覗き込むとなんと下腹部がパンパンに腫れていたのだ。「ヤバい!」と思い、辺りを見回すとすぐ近くに動物病院の看板があったので駆け込んだ。先生は見るなり開口一番「これは死ぬかもなぁ」と一言。「えっ!」「多分ヘルニアで腸が飛び出している可能性がある。ここではエコーしか見れないからかかりつけの病院で見てもらった方がいいですよ」すぐにタマに電話して来てもらい駅の反対側にある動物病院へと急いだ。そこでは春に細かく健康診断をして全く問題なしと太鼓判を押されていた。血液検査とレントゲンでソケイ部のヘルニアと診断され、脱腸していて壊死の可能性が高く数値も悪いのでこのままでは長くても24時間は持たないという。早急に手術が必要だがここでは手術はできないと言われた。

「他の病院へ問い合わせてみましょう。しかし、これからだと夜間になり救急でしかも大型犬となると受け入れてくれるかどうかはわかりません。断られる場合もあります。そうなったら残念ですが諦めていただくしかありません」一瞬崩れ落ちてしまいそうになったが、幸運にも受け入れてくれる病院が見つかったのだ。4月に八王子にできたばかりのER病院だった。夜10時に受付ますという。その時点で5時。家から病院まで1時間半としてそれまでの間は家で待っていようということになった。ただ病院を出る時、先生は言った「手術をしても助かるかどうかはわかりません。それだけ悪い状態です。」あまりにも冷静なその言葉に寒気がして心臓が高鳴った。家に着いたがもう中へ入る気力はDONにはなかった。この数時間でみるみる衰弱していってるのがわかった。私達はピクニックシートをMother treeの下に敷いてそこに座り出発時間まで待つことにした。その時、私の中によぎったのはNOBUYAの時とあまりにも似ているこの急展開の状態だった。助かると信じているが、もしもということもありえるのだ。「そのもしもだったら?今この時間がもしも一緒に過ごす最後の時間だったら?」そう思うといてもたってもいられなくなり、この瞬間をかけがえのないものにしようと家からセージとインディアンフルートを持ってきて、セージを焚きながらDONのために心をこめてフルートを吹いた。彼を撫でながらどれほど愛しているか、どれほど感謝しているかを伝えた。するとこちらの目を真っすぐ見つめ返してくれたのだった。「そんなこと知ってるよ」と言わんばかりに….。

病院へ着きすぐに精密検査が行われた。主治医からは「かなり危ない状態です。実際にお腹を開けてみてもう手遅れかもしれませんし、手術中に命を落とす危険性が充分にあります。それを覚悟しておいてください。」そう宣告されたのだった。手術時間は4時間から8時間かかるだろうということだった。私達は駐車場の車の中で待つことにして、ドンを慕ってくれている仲間達に連絡をしていった。彼らもみな心を寄せてエネルギーを送ってくれるという。あとはもう祈るしかない。NOBUYAやDONの母親のnociwもついていてくれるに違いない。そう信じた。全身麻酔で眠っているDONに心の中で呼びかけた。「大丈夫だよ!DONはもっと生きる!」そして、夢とも現実ともわからない意識状態でうつらうつらしていた深夜の2時に突然声をかけられた。「無事終わりました。DONちゃんは助かりましたよ」タマと抱き合って喜んだ「あーっよかったーっ」「本当に本当によかったーっ」

意外なことに壊死していた腸の範囲が予想よりも遥かにに少なく、切断して繋ぎ合わせることが可能だったため助かったとのことだった。「まだ眠った状態ですがお会いになりますか?」中へ入ると「あ、今自分の呼吸が戻りましたね」と先生が人工呼吸器を外した。きっとDONはそばに来たことがわかったのだと思った。目の前で息をしている存在がただ愛おしくてたまらない瞬間だった。DONはそれから8日間入院生活を送り無事退院して今は我が家にいる。あとは抜糸の日まで傷口を舐めないようにエリザベスカラーをつけたままだ。あっちへぶつかりこっちへぶつかりしながらも、黙々と散歩をしている。やはり彼は散歩命なのだ。抜糸をしても1ヶ月は充分注意して過ごすようにとのこと。術後のケアを大切にしていきたいと思う。

NOBUYAの時がフラッシュバックして心が動揺してしまった突然の出来事だったが、DONは生きて帰ってきた。彼は私のガイドでもあり先生だ。まだまだ彼から学ぶことが沢山あるということなのだろう。魂は永遠だということはNOBUYAに教えてもらったが、やはり触れられる喜びというのは私が肉体を纏っている以上何ものにも代えがたい。退院してきたDONを再び抱きしめることができた時、きっとこれからの私達の関係性や意識は次の段階へと進むのだなと直感した。いまはただ、すべての存在に感謝の気持ちで一杯だ。

DON生きてくれてありがとう。心から愛しているよ。