「帰郷」

2年ぶりに故郷の余市へ帰省してきた。

1年前に屋根の雪下ろしで転落、大腿骨を骨折して雪に埋もれ九死に一生を得た父の容態は想像していたよりもずっとよく胸を撫で下ろした。当初はもう歩けませんと宣告されていたそうだがリハビリのかいあって少しづつ歩けるようになっていたからだ。そんな父を支え続けている母の様子はどうだろう?と気になっていたが相変わらず、どんな状況にもめげずに頑張る母らしく気丈に淡々と日々を過ごしていた。やはり家族とは実際に会うだけでホッとする存在だなぁとつくづく思った。顔を見て話ができることがこんなにも嬉しいなんて…。

札幌の友人宅には今回もやはり立ち寄った。2017年にNOBUYAが果てた場所として、それ以降訪れる度に毎回フラッシュバックを体験し、クリーニングの機会を与え続けてくれている大切な存在でもあるからだ。3人の子供たちは成長しそれぞれに個性を花開かせていた。思春期に突入しているので前ほど絡まなくなってはいるが、ずっと大切な家族。そんな子供たちの姿にNOBUYAが旅立ってからの5年という歳月の深さを思った。

阿寒湖村に暮らす友人、アイヌの唄者の絵美とジュエリー作家のAgueの長男のカントのバンドが札幌で初のライブを行うというというので見に行った。カントは2年前に公開になった映画アイヌモシリに主演して新たな表現を経験していたが、中学の時からバンドを組んで仲良し3人組で同じ学校へ進み、高校生の現在もバンド活動に励んでいてこの日は彼らのハレのステージだった。「このタイミングで∀さんがここにるなんて本当にすげぇー」とAgueもしきりに感動していたが、カントがお腹の中にいる時から交流している私としては親戚のような気持ちだった。特にNOBUYAは今のカントに絶対にやにやしてるに違いない。ライブ後カントに「NOBUYAもきっと喜んでるねぇ」と言うと「うんそう思う。だから今日はさ、NOBUYAのこと思いながら歌ったんだよ」との言葉。ジーンときてしまった。可愛いやつだなぁ…。

ライブを見たあと、絵美は仕事でそのまま千歳空港へ向かい私達はAgueの車で阿寒へと出発。途中長女のりうかを三笠にある寮へ送り届けてから帰った。りうかも今年高校を卒業し札幌のお菓子屋さんに勤め大好きなパティシェの道を歩んでゆくのだそうだ。りうかがまだ赤ちゃんだった頃を懐かしく思い出しながら、ホントに子供の成長はあっという間だなぁ~と感慨深かった。「∀のインスタはちゃんと登録してあるんだよ」とりうか。別れの時ハグをすると、彼女の優しい気持ちが伝わってきて泣きそうになった。

阿寒から友人のいる津別へ。昨年アイヌの木彫り作家である藤戸幸夫さんとめでたく結婚して、とても幸せそうで本当に嬉しかった。ここにはドンの姪っ子のオオカミ犬マナがいる。ドンは山梨の友人に預けてきたが旅先でもこうしてファミリーに会えるのは楽しい。雪の中カンジキを借りて一緒に散歩に出かけたのだが、カンジキの上に雪がどんどん積もって重いこと重いこと!「はぁ~っ」と、雪の中にドカッと倒れ見上げる空に子供の頃、雪と夢中になって戯れていた楽しかった日々を思い出した。澄んだ夜空には満天の星が輝き、とてもロマンティックだった。

津別から妹夫婦が暮らす富良野へ。それが今回の旅の終点で最後にゆっくり姉妹水入らずの時を過ごして帰ろうという予定だったのだが、北海道が例年にない大雪で電車や高速バスがストップしてしまい津別で2日間足止めになってしまった。少しの時間しか会えなかったのは残念だったがやっぱり大切な家族に会えて嬉しかった。ここにはドンの兄弟のシヴァがいてこれまたオオカミ犬と触れ合うことができて大満足。箱入り息子のシヴァは相変わらずツヤツヤピカピカで本当に美しかった。甘えん坊将軍なところはドンと一緒だなぁ~(笑)。

上も下も右も左も境界線がなくただただ真っ白な世界。こんな北海道は久しぶりに味わった。異次元の世界にすっと入っていきそうな不思議な感覚。それが心地いいと思ってしまう自分。やはり私は道産子なのだ。今回の旅で身も心も癒された。快く送り出し迎え入れてくれたみんなに本当に感謝です。

旧暦大晦日に誕生日も迎え新たな一歩を踏み出す時、今は3月3日スタートの個展に向けて制作に励んでいます。絵を描くことに集中できる喜びにありがとう。

愛と感謝をこめて。