「クリーニング」

ツアーから帰って来て、黙々とアトリエを整えることに精を出していた。

「帰ったらすぐに絵を描きたい!」と思っていたのだが、久しぶりにアトリエに戻ってみるとなんだか隅々まで掃除をしてから描こうという気分になったのだ。
ここまでアトリエの物すべてを整理整頓したのは2年前に引っ越してきて以来かもしれない。一度ハマり出すと止まらない性分なのでとことん夢中になってしまった。
思えばこれは幼い子供の頃からの癖だった。自分の空間を整えようと思い立つとそこからいつまでも没頭してしまうので親もあきれていたものである。部屋の中をやり出すと今度は外をきれいにしたくなる。2ヶ月間留守の間伸び放題だった家の周りと中庭の草達を1本1本手で抜く作業にも夢中になった。そうしながらツアーでお世話になった方達の顔が浮かんできては楽しかった出来事を思い出し1人で笑いながら吹き出したりしていた。

NOBUYAといえば我が家のオオカミ犬ドンのために今度は遊び場を作ってあげようと、家の外のさらに外にある相当ボウボウな草を刈るために草刈り機まで買って同じく日々草刈りに没頭していたのである。家のすぐ下には大屋さんのお兄さん「網野」さんが世話をしている素敵な畑があって、毎日朝の5時から精を出して丹念に野菜を育てているのだが、なんせ我が家の他には家のない小さなお山のてっぺんなのでサルやイノシシがやってきてその美味しい野菜を食べていくので大変困っているとのことだった。「あんたの家からこの畑の下まで杭を打ってロープを貼って、そこをこの犬が行ったり来たりしてくれたら奴らも来れねぇだろうによ」というのでそのリクエストに応えて作ることにしたのだ。作るからにはドンにとってそこが快適で楽しくなければ意味がないというので約幅3m×長さ100m以上の草を刈って地面をなだらかにして途中にドン専用のドームハウスまでも作ろうと頑張っている。草を刈っていくと、いったいいつの頃からそこにあったのかという捨てられたゴミ達が日の目を見る。しかもそれは結構な量だ。すべてが終わったらまとめてグリーンセンターへ持って行くことにしよう。

ドンもやはり久しぶりの我が家での生活にとてもリラックスしているようだ。もうすぐ私達の所へ戻ってきてちょうど1年が経とうとしている。屋久島へ貰われて行く前に私達と彼の母親「nociw」と一緒に過ごした7ヶ月と、帰ってきて私達の犬になってからの1年とはドンとの関係が明らかに違う。1年経って今は本当にお互い信頼関係で結ばれていることを強く感じる。「7年間屋久島ではずっと外にいたんだから家の中には絶対入りたがらないと思うよ」と言っていたNOBUYAだが、今では昼間は気持ちがいいので外にいるが、夜は家の中で人間顔負けのいびきをかきながら幸せそうな顔をしてまるで人間のように寝ているのだ。いったい彼は人生7年目にして突然180度変わった生活をどう感じているのだろうか?とふと考える時があるが、いや彼はただ「今を生きている」のだからそんな考えは野暮というものだよなと思うのだ。確かに私達にとっては常に「気づき」を与えてくれる先生以外の何者でもない。そんな先生にカムバックしていただいてただただ感謝の毎日である。

愛してるよ!この地。この家。この家族達。ありがとう。「クリーニング」