「CANADA」

11年ぶりにカナダへ行く機会に恵まれた。NOBUYAと行った最後の海外旅行の地でもある。

11年前に行ったのは、その頃まだ旅の途中だった高尾に住む「悠一郎」と「美千代」がカナダで「ワタル」に出会い、私とNOBUYAのためにバンクーバーでオーガナイズしてくれた「FULL MOON ARTSHOW」のためだった。私の絵の中でNOBUYAがDJをしてみんながダンスしている…。それは夢のような光景だった。NOBUYAはその後も「あの時は最高に楽しかった!」と何度も言っていたっけ。「カナダなら住んでみてもいいな!」とも。確かに私達の生まれ故郷の北海道にもどこか似ている気がした。
私達は「ARTGYPSY」と名乗り「ARTGYPSY ARTSHOW」なるものを各地でやってきたが、そのARTSHOWという言葉は実はこの時のカナダからきているのだ。だから
今回の旅は私にとって、まるで一巡りのサインのような旅だった。あの時はソルトスプリング島の森の中でキャンプして「アビュータス」という美しい木に惚れてその枝を拾い集め、バンクーバーでのARTSHOWでデコレーションをした。そして今回は幸運にもバンクーバーとソルトスプリング島でミニミニARTSHOWができるとのこと。島に着きアビュータスの木を見た瞬間、11年前の記憶が蘇ってきた。しかも私は11年前あまりにもこの木が気に入ってその枝たちを日本にまで持ち帰り、ずっとアトリエに置いていた。そして今年の1月の誕生日の満月にやっと焚き火にくべたのである。11年ぶりに。するとまたその母体である木と同じ島で再会を果たして…。それはとても不思議な感覚だった。NOBUYAの仕業のような気もした。落ちていたモミの木を輪にして頭に冠りARTSHOWをやった。ソルトの森が聴いてくれているような気がした。バンクーバーでも冠ったら、森の匂いに包まれて心が落ち着いた。今回バンクーバーでのARTSHOWにコラボアーティストとして参加してくれたワタル。彼と再びこの地でしかもこういう形でセッションできたことも本当に嬉しかった。ワタルはしきりにNOBUYAを感じると言っていたな。「11年前にNOBUYAさんと∀KIKOさんに出会ってどれだけ人生に影響を受けたか知れません。それほど僕には大きな出会いだったんです…」と。NOBUYAの弟分の1人でもある「山中裕二」や悠一郎や美千代のカナダのファミリー達も駆けつけてくれてありがたかった。みな愛がいっぱいで「応援してます!」と励ましてくれて…。そしてこのミラクルな旅をガイドしてくださった素敵なアーティスト「テリー」さんやアトムチームの「上田」さん「アーリー」「はるな」。ソルトをガイドしてくださった「ゲーリー」「郁子」さんご夫妻。留守中ドンを見てくれた「なお」みんなに心から感謝した旅だった。

帰国後、カナダで出会った様々なクリエイター達からの刺激を受けて自分も早速く描きかけで手が止まっていた絵の制作を再開することにした。昨年春のツアーから一旦帰ってきて、夏のツアーに出るまでの間に着手していたもので、私のライフワークの一つでもある「フラッグ」シリーズの新作だ。これは時間がかかるため前回のフラッグからちょうど10年の月日が流れていた。私は描きたくてうずうずしていたが腱鞘炎で2年間手を痛めていたこともあり、私の手をいたわってNOBUYAはなかなか描かせてくれなかった。でもそんなNOBUYAもやっと「おーいよいよ描くのかー。手ぇ壊さないように気をつけろよー!」と言って喜んでくれていた。「夏のツアーから帰ったらまた続きを描くからねー」と言ったら「おぉーっ。冬にはこもって好きなだけ描かしてやるよ!」と…..。そしてそれ以来この絵の時は止まったままだった。何故かNOBUYAのミックスCDの整理とか、写真の整理とか様々なものたちの整理をしたくなってしまったのである。そうすることで彼と向き合う時間が欲しかったのかもしれない。そばにいることが当たり前過ぎて意識してそうすることが今までなかったから。まず自分自身の心の整理ができていなかったんだな…。でも今回の旅では本当にみんなのお陰で自由に自分を見つめることができてよかった。私はやっぱりクリエイトすることと表現することが大好きなのだ。アートでしか生きていけない人間なのである。「ひとりでクリエイトしている時が一番幸せ」という私の正直な想いを一番理解してくれていたのはまさにNOBUYAだった。だから今はきっと「描けよーっ。最高に幸せな時間が与えられてるんだぜー!」と笑っていることだろう。「うん。描くよーっ。できたら一番に見せてあげるね!」