「リニューアルその2」

ある日突然電話がかかってきた。「大屋が壊れた屋根直すってよ」声の主は「網野さん」。家のすぐ前で畑をやっている大屋さんの義理のお兄さんだ。

昨年の秋の台風でアトリエの縁側の屋根が吹き飛んでしまって以来そのままだったのだ。その日はまだ骨折のリハビリ中で手が使えず友達2人が泊まっていた。朝、中庭の池に落ちている屋根を発見し、みなで呆然とした。2人は早速修理してもらった方がいいと写真を撮って大屋さんのやっている不動産屋さんへと駆けつけてくれた。だが答えは「ノー」で自分でやってくださいと断られたとのこと。毎朝畑に来ている網野さんから「あの屋根は早く直した方がいいぞ。ほっといたら周りもどんどん痛んでくるからな」と言われるようになった。「大屋はやってくれないのか?」「はい。自分でやるようにとのことで。」ギャラリーを作ってくれていた「浩平」が「ここが終わったらやってあげようか?」とも言ってくれたので網野さんにその旨を伝えてはいたのだが、それもいつになるかはわからないよなーという気持ちではいたのである。ところが一ヶ月前に急に電話がきたのだ。しかも屋根を直してくれるという朗報とともに…。

そのきっかけとなったのは大屋さんの奥様、つまり網野さんの妹さんが亡くなられたことによるものだった。なんでも調べてみると奥様には誰にも知られてこなかったヘソクリの存在が発見されたのだという。そこで網野さんはいの一番に弟である大屋さんに「これで屋根を直してやれよ」と言ってくれたようで、今までさんざん言ってきても首を縦に振らなかった大屋さんがついに「イエス」と言ってくれたとのことだった。しかも網野さんは、他にも悪い所があったらそれも全部直すそうだから紙に書いておくように!とまで言ってくれたのだった。「あいつは高校の時からよく知ってるんだ。オレの言うことだけは昔からよく聞くんだよ」と。なんといういい人なんだろう。いつも目の前の畑から私を呼んで野菜を持って行けと言ってくれるのだ。オレがいなくてもアンタは遠慮しないで持っていくようにと….。

そこで、いざやろうと決心してくれた大屋さんには熱い思いがあった。40年以上前にこの家は宮大工に建ててもらったものだから、宮大工にお願いすると言って聞かなかったそうだ。「何も普通の大工に安くやってもらえばいいじゃないか」という網野さんにそこだけは譲れないと突っぱねたらしい。そしてあくる日、また唐突に大屋さんが宮大工の頭領を連れてやってきた。一緒に修正箇所をチェックするためである。悪い所を紙に書いてみると結構あった。リビングの床も所々落ちている。扉や窓も重くて開けづらい。水周りも…等々。男手がいなければお手上げな作業ばかりである。これらを全部自分で修理するとなると相当なエネルギーがかかったであろう。無論、どうしていいかわからず屋根すらもほっておいた自分にとってこの知らせは突然天から湧いてきた吉兆であった。大屋さんの奥様にも感謝である。そしてきっとNOBUYAの計らいも感じずにはいられない。NOBUYAがいたら家の修理に関することはいつも彼がやってくれていた。この家の状態を見かねて向こうで奥様に相談してくれたのかもしれない…。

宮大工の頭領が全体の管轄者となって彼の指示のもと、いろんな職人さんが出入りするようになった。そのため私にとっては初めて知ることばかりで興味津々であり非常に勉強になっている。
屋根ひとつをとっても下地を用意する宮大工さん、和銅を付ける銅板屋さん、瓦屋さんとそれぞれに役割があるのだ。玄関の扉や窓が重いとなるとこれは建具屋さんの仕事だというのも初めて知った。そして様々な職人さんと接していく中でみな共通項があり「職人ってカッコいいなー」とつくづく思う今日この頃なのである。とにかく仕事に無駄がなく早い。そしてみなとても温かいのだ。頭領は息子さんを連れ立って来るのだが、きっとこの息子さんはオヤジの背中を見て自分も宮大工になったんだろうなーとか、そんなストーリーが勝手に浮かんでくるのだった。(笑)そして何より一番喜んでいるのがこの家自身であるというのを強く感じる。家がどんどん明るくなっていくのだ。NOBUYAのエネルギーに私とドンのエネルギー、そして色んな人々のエネルギーがポジティブな波動となってこの家をどんどん輝かせていっている気がする。そうしてともに家も人も新たなスタートラインに立つのだろう。

NOBUYAの得意げな笑顔が脳裏に浮かび、また今日も「ありがとう!」の一日を過ごさせてもらっています。感謝をこめて。