余市

故郷の北海道余市にて、7年ぶりとなる個展「HOME」が無事終了した。

会場となった農園もこのようなイベントをやるのは開園以来初めてで、企画担当してくれた方もイベントに携わること自体が初めて。私自身も農園が会場となる個展は初めてで、全てが初めてな者同士の開催に「果たしてどうなるのか?」というドキドキ感があったが、いつものように「天に全てを委ねるしかない」という境地で身を任せることにした。まずは大掃除から始め、友人や妹が駆けつけてくれて、物の移動や掃き掃除、拭き掃除、はたまた全ての窓や扉を磨くということを経ての大浄化で場を清めた。設営に2日を取っていて本当に良かったと思った。設営1日目の8月27日はNOBUYAの8年目の命日だったが、久しぶりに夢に現れてくれた。それは彼が手のひらを差し出してきて、私がその上に手を合わせると、ぎゅっと握りしめてくれるという短いシーンだったが、このタイミングで現れるということは、やはり彼も楽しみにしてくれているのだろうと思い、力が湧いてきた。

この個展を終えたら、ゆっくり制作をしながら、昨年同様、母の介護に当たろうと思っていた。母は見た目も昨年より元気そうで、できることも増えていた。自分でお湯を沸かし、カフェオレを入れていた。食事を作ることはまだできなかったが、食後の食器をきれいに洗い、拭いて食器棚にきちんと並べていた。昨年私がプレゼントした色鉛筆とスケッチブックで絵を描くというのは、その後なかなか進まなかったようだが、妹の発案で大人の塗り絵をプレゼントすると、それにはすっかりハマってしまい、もう何冊も塗り終えた冊子を「見るかい?」と言って差し出してきて「きれいだね!」と褒めると、とっても嬉しそうにしていた。塗り絵をしている時の母の表情は真剣そのもので、とても美しく、その姿にも感動した。その側で私はアートショーの練習をしながら、母とそんな時間を共有できることに幸せを感じていた。

私の個展をそれはそれは楽しみにしていた母は、個展前に新作のクジラTシャツを購入してくれ、これを着て初日の開始時間の10時に妹と一緒に行くとはりきっていた。前日はその日に来て行くための服を揃えてソファーの上に丁寧に畳んで置いていた。一番上にはクジラTシャツ。母のその気持ちが嬉しく、見てもらえることが本当に楽しみだった。ところが、その前夜、母をお風呂に入れた後、私もお風呂に入ろうと部屋で準備をしていると「きゃーっ!」という母の悲鳴が聞こえた。家の中を見回しても見当たらない。どうやら叫び声は外から聞こえる!と思い出てみると、勝手口の階段の下で頭から血を流して倒れている母がいたのだ。その信じられない光景に、一瞬現実とは思えなかった。何のために外へ出たのか?見ると食器を洗うボールが地面に転がっていた。そんな行為を今まで見たことがなかったのに….。母を抱えて家の中に入り、顔じゅうの血を拭くと目の脇が切れていた。が傷はそれほどでもなかった。それよりも肩が痛いという「救急車を呼ぶか?」というと「いや、そこまでじゃない」と言い張る。「本当に?」「うん。大丈夫…」確かに私自身も骨折を経験しているが、もし折れていたらこんなふうにはしていられないはずだ…と思った。でも、夜中に何度も痛い!と叫ぶのでその度に「もう救急車呼ぶよ!」というと「お願いだからやめて!」と懇願する。2年前の脳卒中で入院した経験が本当に嫌だったのだろう。近くに住む妹が毎日来てくれるし、今こうして1人気ままに生活できていることが一番幸せなんだと、今回も毎日のように言っていたのだ。そんな問答をしながら「朝になったらフミ(妹)に言って病院に連れて行ってもらうからね!」と念を推して、ホメオパシーのレメディを与えるとやっと少し落ち着いた様子を見せた….が、すでに夜が明けていた。妹に電話して来てもらい、私は身支度をして初日の会場へと向かったのだった.。妹からのメールが入った。「母、複雑骨折で入院、手術」「えっ!折れていたの。まさか….」信じられなかった。それなのに、あんなに気丈に振る舞っていたなんて….。個展終了後に手術の日を迎え、今、母はリハビリを頑張りながら順調に回復へと進んでいる。見舞いへ行くたび、元気になっている母を見ることができてホッと胸を撫で下ろす。「本当に良かった…」あとは、時間に癒して貰いながら、再び自宅に戻り、元気な毎日を送ることができるように祈るばかりである。

後日、個展会場となった農園を訪れてみると、オーナーの方から「実は個展やアートショーをご覧になったお客様から、今でも反響を頂いているんです。みなさん、あの時の余韻がずっと残っているそうなんです。そして、感想として私たちが一番驚いているのは、楽しかった!という言葉以上に、開催してくれて本当にありがとうございます!おめでとうございます!という言葉を沢山頂いていることなんです」とのことだった。「僕たちにとっても、ここで∀さんにやって頂いたことでこの場所がこれから大きく開かれて行くのだろうなと予感しています。本当に感謝しています」とのこと。いやいやそれ以上に、私の方こそ色々勉強させていただき、心から感謝しています。みなさま、本当にありがとうございました。

今年は秋分の草津でのアートショーを終えたら、しばらく心と体を休め、ゆっくり制作しながら過ごしたい。草津のタイトルは「縁まつり」。ご縁のある方々が集う、自分自身にとっての2025年を象徴する、意味深いまつりになるのだろうと思う…。