「UNSEEN」

NOBUYAが旅だって一ヶ月が経ちました。あの時から時間の感覚が変わって今もまだ不思議な気持ちです。

お通夜の時から余市まで飛んで駆けつけてくれた仲間達に助けられ、車の運転ができない私に変わってNOBUYAの車を運転して私やドンや作品を
家まで送り届けてくれたので今アトリエにいることができています。NOBUYAが楽しみにしていた故郷余市での個展とARTGYPSY ARTSHOWも彼らのお陰で無事やり遂げることができました。オーガナイザーの「伊藤家」の家族や私の家族や親族、兄弟達にもどれだけ助けられたことか知れません。感謝してもしきれないほどみんなに心からのサポートを受けました。本当に私は幸せ者です。

余市でのARTSHOWは生涯忘れられないほどの想い出です。ゲストミュージシャン「SAFAIKO」のメンバー「山ちゃん」とは何年か前の函館のイベント
にお互い呼ばれていて一緒に合宿生活を共にして意気投合したアーティスト仲間で今回の初共演と再会をNOBUYAもとても楽しみにしていました。突然旅立ったことを山ちゃんに知らせた時、その旅立ちの日は偶然にもなんと山ちゃんの誕生日だったとのこと。「今回の演奏はボクもNOBUYAのために捧げます!」と言ってくれた彼。会場には小さな田舎町余市にいったい何が起こったの?というくらい溢れんばかりのお客様が来てくださり、NOBUYAも驚きとともにとっても喜んでいたと思います。SAFAIKOのライブでは会場が踊りの渦になってまるでお祭り騒ぎ!みんな笑顔が炸裂していました。笑いや踊りが大好きだったNOBUYAになんともふさわしい一面でした。

旅立つ札幌個展の前に会場の「ギャラリーあだち」に一緒に行ってオーナー夫妻に挨拶をして下見をした時、NOBUYAが奥様にある場所を指差して「ここのスペースがとてもいいから何か特別な一番メインになるものを展示したい」と話していたというのを後日奥様から聞かされたのですが、結局そこにはNOBUYAの遺影にも使用した屋久島の奈央が撮った満面の笑みの彼の写真と私が書いたNOBUYAへのメッセージが展示されたのでした。いつも先を見通しているNOBUYAです(笑)。ARTSHOWの作品も今年のツアーではすべて「REAL」というタイトルの作品をやってきているのだけれど、北海道ツアーに出発する直前に「∀KIKO!今回余市の個展の時だけはどうしても過去の作品-UNSEEN-でやりたいんだ」と言ってきたのです。この作品は私が屋久島の森に籠り絵を描いていた時に彼が高尾で制作したもので、彼自身とても気に入っていると言っていた作品でサブタイトルを「目に見えないものの力」と自ら名付けていました。そしてまさにその名の通りNOBUYAはあの時、目に見えない力という存在そのものになって会場にいたのだろうと思います。UNSEENの最後の詩は私が書いた「記憶への旅」という詩でその最後が「さぁ魂の話をしましょう」という言葉で終わるのですが「余市ではこの最後の言葉がとても重要なんだ」とも話していました。今思うと不思議でもあり、またこうなるようになっていたのだなとも感じます。

そしてNOBUYAにしては珍しく出発前に12月までのスケジュールを組んでいました。本来私達どちらもそういったことが苦手でしかたなくNOBUYAがやっているという感じだったのであまり先の予定までは組んでいないというのが日常でしたが何故か一生懸命に苦手な電話をかけて先方と打ち合わせをしている姿がありました。だから今はNOBUYAの描いたストーリーをできる限りやっていこうと前向きに考えています。それでも車のことやドンのことなどで色々と難しい問題もあるのですが、その都度運転してくれる人が現れたりドンの面倒を見てくれる人が現れたりして救われています。本当にありがたいことです。

それともうひとつ珍しいことがありました。それもツアー出発前に2枚組のCDを渡されたのです。NOBUYAがミックスしたCDでした。「ツアーから帰ってきたらアトリエで聴いて。」タイトルは∀KIKO Vol.1とVol.2。DJをやっている時が一番幸せだと言っていたNOBUYA。よく友人に依頼されて彼らのために真剣に音を紡いでいました。喜んでくれる顔を見て本当に嬉しそうにしていた彼。でも私のためにというのはもう何年も作ってくれたことはなかったのです。頼んだわけではなかったので受け取った時は純粋に嬉しかったのでした。音楽こそが彼の心の拠り所でした。私は彼のDJを聴きながら踊る時間がたまらなく好きでした。そうやって眠りにつくことが幸せでした。そんな夜を何度過ごしてきたことでしょう。彼の音はアンビエントでありながらもジャンルを越えあらゆる世界へと心を誘ってくれるものがありました。彼独特のセンスが光るものでした。そして何より私が彼の一番のファンです。このミックスがNOBUYAにとっての遺作となったこと。すべて完璧な私の愛する魂です。

ありがとうNOBUYA。あなたの音を聴きながら私もこっちで一歩づつ進んでいるよ!