「馬頭観音」

秋を感じる今日この頃。先日、続いた長雨の影響で押し入れの床が丸ごと抜け落ちてしまうという事件があった。

雨降る夜中に「ズドーン」と物音がしたのだが、ねむかったので呑気に翌朝確認してみると、なんと地面がむき出しになっていたのだ。家が古いということもあるのだがこれはとてもショックな出来事だった。というのも押し入れにあった結構な数の画集が段ボールごと破損して泥まみれになっていたからである。あまりの信じられない光景に一瞬目を疑ってしまったが、眺めている場合ではないと気づき慌ててそーっと優しく一冊づつ画集を拾い上げては「ごめんよぉ~」とクリーニングしていった。

そして、あろうことかトイレの床もだった。なんとなく最近便座に座るとちょっと沈むような感覚を覚えてはいたのだが、明らかに壁と床の間に隙間ができていて、床がはっきりと斜めに傾いているのを発見したのだ。早速、家の前で畑をやっている大屋さんの義理のお兄さん「網野さん」に見てもらうと「これは大屋に言って早く直してもらわないと次の台風がきたら大変なことになるぞ」とのこと。善は急げで友達に大屋さんの家へ連れてってもらい証拠写真とともに修理のお願いにあたった。すると大屋さん、いつもは簡単には了解してくれないのに「いいぞ」とすぐに返事をしてくれたのだ。これは奇跡的なことなので思わず「やったーっ!」と声を出さずにはいられなかった。その日は丁度NOBUYAの4度目の命日でもあった。「ありがとう。のぶや…」

その事を大屋さんに話すと「オレの女房の仏壇はあそこにあるぞ」と言って案内してくれたので写真の前で手を合わせることができ、私は初めて亡くなられた大屋さんの奥様「律子」さんの顔を見ることができた。律子さんは網野さんの妹さんで、もともとこの家の土地も畑も網野さんのお父様のものだったらしい。
大屋さんが律子さんと結婚前に付き合っていた頃、お父様に呼ばれてこの畑に大根を収穫にきた時に、山の上からの眺めに感動した大屋さんが「あ~ここに家があったらいいなぁ」と思わずつぶやいたところ「じゃあ建てたらいいじゃないか」と薦められたのだそうだ。「そうだったのか…」大屋さんは会うといつも「とにかくあの家は眺めはいいだろ?」と何度も聞いてくるので、その度に私は「はい。最高にいいです。とても気に入ってます!」と答えていたのだった。それで昔は馬もいたそうでその馬にちなんで畑の前に律子さんが建てたという馬頭観音の石碑があって、私は何となくそうしたくって毎日手を合わせて律子さんに話しかけていた。話しかけながらも会ったことはないので、どんなお顔をしているのかなぁと思っていたが、想像通りのとても芯が強そうな逞しそうな方だった。お顔が見れて嬉しかったな。

つまりこの家は大屋さんと律子さんが最初に暮らした夢の家なのだ。あちこち古くなって修理が必要な箇所が次々と出てはくるが、大切に住んで愛してあげたなら家だって律子さんだって嬉しいだろうと思うのだ。そしてあっちの世界ではNOBUYAと「あらぁ~次は床ねぇ~」「派手にいっちゃいましたねぇ~」なんて話しているんじゃないかと勝手に想像してみると何だか笑顔になってくるのだった。

今月は23日の秋分からの4日間、上野原の茶室「萩路庵」主催の個展「茶室×ART」が開催になります。初日のARTSHOWの予約受付アドレスを間違えて載せてしまったまま気づかず大変失礼しました。これから秋分に向けて落ち着いて準備をしていきます。みなさまと出会えることのドキドキワクワクを胸に。

今日も馬頭観音に手を合わせながら…。