「空」

このところ空に圧倒され感動させられる日々を過ごしている。

先日の台風では生まれて初めて避難所で一泊するという貴重な体験をした。たぶん1人だったらそのまま我が家のオオカミ犬「ドン」と家で過ごしていただろうが
前日から上野原の仲間の「ウメ」と「タマ」が家の様子を見にやってきてくれて、雨戸がついていない廊下の窓と玄関を養生するためにホームセンターへ行き
プラスチック段ボールというものを購入して懸命にガラス窓を保護してくれた。当日の午前中には市役所へ避難した方がいいとウメがアドバイスをしてくれ
NOBUYAの車もそのまま置いておくのは心配だと彼女が前日に市役所の駐車場へと運んでくれた。確かに昨年の台風ではアトリエの屋根が飛び、木が倒れてきていた。我が家は山の上なのだ。心配されて当然の場所に住んでいるのだと思い知らされた。当日はタマが迎えに来てくれて、現地でウメやウメの旦那の「圭樹」と落ち合った。ドンとタマの犬「茶太」はNOBUYA号の方が広いのでそちらへ移し車中泊してもらうことに。私達は体育館のステージの裏に寝床を確保した。二階のテーブルと椅子がある所で作ってきたおにぎりやサンドイッチを頬張っていると上野原在住の人達が集まってきて、そこはいつの間にか家庭のリビングのように和気あいあいとした雰囲気になっていった。今まで顔は知っていたが、ちゃんと話をしたことがないという人達と同じ時間を共に過ごし不思議な連帯感が生まれていた。みんなで最上階の展望ルームへ上がり外を見下ろした。毎日ドンを連れて歩いている街がどこか異国の風景のように感じられた。ちょうど台風の目の中に入った夜、風がピタリと止んだので「今だ!」と思いドンと散歩に出かけた。まるで真空の中にいるような、なんともいえない幻想的な感覚を味わった。
しばらくすると台風が去り、もう一度ドンと外へ出た。ドンはやっと安心したのかウンチをしてくれた。朝からバタバタしていた私達の緊張を察してか、家の外に出た彼はさっとどこかへ身を隠し市役所へ行きたがらなかった。着いてすぐに散歩をしてもウンチをしなかったのだ。いつもならすぐにするのに…..。本当に彼らは繊細なのである。空はたちまち晴れ渡り美しい満月が顔を出した。翌朝の散歩は、まさに台風一過の澄み渡った空に輝く太陽の光が街を照らし出していた。
クリアな空気を思いっきり吸い込み、まるで夢のようだったひとときを思った。NOBUYAがいなくてもこうして助けてくれる仲間達に恵まれていることに、感謝の念が沸き上がってきた。

秋分の日に富士山麓のウェルネスリゾート「日月倶楽部」の「暦」ギャラリーで開催された初めてのリトリートプログラムの日も台風だった。主催者の二胡奏者「翠月淳」さんも何度かここで音浴プログラムを開催されてきていたが、さすがに今回は富士山を拝むことは難しいだろうと思っていたようだ。台風のため参加をキャンセルされた方々がいた一方で、そんな中でもはるばる来て下さった方々がいらした。一日目の夕食の時、二日目の朝にプログラムに入っていた、富士のご来光を拝んで滝へ行きお水取りをするという予定を「みなさんどうされますか?」と淳さんが聞いた時、「もちろんこの雨の中では中止だろうな」と誰もが思っていた中で1人の方が「私行きたいです!」と言葉を発したので「じゃあ行きたい方は朝この食堂に集合して下さいね」と淳さんは言った。一晩中降り続いていた雨。朝もザーザー降りの中集まっていた方々がいた。淳さんの先導で歩き出した聖地の道。まずは神社にお参りをした。「みなさん、今日は秋分。昼と夜がひとつに並ぶ日。富士山から登った太陽が出雲の地へと沈むレイライン上に私達は今立っています」そう淳さんが話してみんなで手を合わせた時、雲が動いて太陽が一瞬姿を現した。「おおおおっ!」驚いた私達は互いに顔を見合わせた。そこからまた雨の中しばらく歩き草原の広場のような所へ出た。「さっきの太陽すごかったね」と言うと「きっとNOBUYAさんよ。今回天気のことはNOBUYAさんにお任せしたの」とNOBUYAに会ったことはない淳さんは言った。そっかぁーと思い、じゃあ今度はと声に出して「NOBUYAー!!」と叫んでみた。会ったことのないみんなも口々に声に出してくれた。するとまた、雲がすごい早さで動き出し、みるみるうちに青空が顔を出したではないか!しかも今度はさっきよりも長い。それでも一瞬の時間だったが永遠のような美しい瞬間だった。「ありがとぉーっ!」みんなが空に向かい手を合わせ思い思いに声を発していた。光に顔を輝かせながら…。

今回のプログラムにはアートショーが二回組み込まれていた。一日目の夜と二日目の朝。それぞれ違う演目で。夜のアートショーも幻想的で本当に気持ち良かったのだが、この朝の散歩の後のモーニングアートショーはまた格別なものがあった。早朝からあの奇跡のような瞬間を共に過ごしたという一体感が相まって
みんなでファンタジーの世界を旅しているようだった。そして11時半からのギャラリー一般公開には降りしきる雨の中沢山のお客様にお越しいただき、終了時間になり搬出の準備に取りかかり、いざ車へ詰め込みを始めようとしたまさにその時、雨がピタリと止みとうとう富士山がそのお姿を現してくださったのだった。まるで「おつかれさま」と優しく抱きしめられたかのようなあたたかさを体中に感じ涙が流れた。「最初から富士山がハッキリと見えていたならこの感動はなかったのよね」淳さんがポツリとそうつぶやいた。普段から私はいつでも空を見ているつもりだったが、実はいつでも空に見られているのだなと、ふとそんなことを思った。

畏敬の念を抱かずにはいられない空との生活です。