「夏至の宴」

夏至の3日間、伊豆に呼んで頂いて個展とアートショーを開催することになった。

主催は河津町にある「やまびこ」。そこのオーナーの立川(かずと、さきこ)夫妻と友人の後藤(やす、とよ)夫妻が企画してくれたイベントである。あれは今年の3月頃だったか、突然のメールが「やす」から初めて届いた。「あの、もしかしたら覚えていないかもしれませんが….」という書き出しで。やすととよ夫妻には2017年3月、岐阜県池田町のギャラリー「UNIVERS」で個展とアートショーをやった時に初めて出会って、その夜2Fのゲストハウスで一緒に泊まって話をした以来だった。NOBUYAが旅立つ5ヶ月前なので、もちろんそこにはNOBUYAもいてやすと熱く語り合っていたのを私は覚えていた。

メールの内容はなんでも、やす達が伊豆に移住してきて友達になった立川夫妻の家へ行ったら私の絵がそこに飾ってあり、「あっ、∀さんの絵だ!」「いつか本人に会ってみたいの!」「おれ達、会ったことあるよ!」というところからどんどん話が膨らんで「私達で呼ぼう!」ということになったそうなのだ。「勝手に盛り上がってしまったので気がすすまなかったら断ってくださいね。」とのことだったが、私には車の免許はないがNOBUYAの車はあるという事情を伝えると「それは心配いりません。こちらから上野原へ迎えに行ってNOBUYAさんの車で作品の搬入搬出はサポートします。もちろんDONも一緒に来てください!」とのこと。それだったら可能だと思い、彼らの気持ちを受けることにした。そしてこの企画は4人で進めるので立川夫妻の方からも一度メールがいくと思いますとのことだった。

「さきこ」からメールがきた。「はじめまして。まずはここに至るまでの話をさせてください」という言葉から始まった内容はこうだった。熊本から伊豆に移住してくる際、とても大切な友達から私のムーンカレンダーをプレゼントされトイレの壁に貼って毎日眺めていた。毎日毎日見ているとだんだん絵の世界に引き込まれている自分がいた。そこへ東京の友達が遊びにきて「∀さんの絵好きなの?」と聞かれ、間もなくして引っ越し祝いにとその友達から私の絵をプレゼントされた。そしてその絵を家に飾っていると、今度は近所に移住してきた後藤夫妻が「∀さんの絵好きなの?」とまた聞いてきて、ついに本人とつながったとのことだった。「絵を見た時から、いつかは作者に会ってみたいと思っていましたが、こんなにも早く実現するなんてまるで夢のようで本当に嬉しいです」と結ばれていた。「うーん。面白いな。」と思った。そして絵が出会いを繋いでくれていることに感謝した。

間もなくして、やすととよが当日搬送の下見も兼ねて伊豆から我が家まで打ち合わせに来てくれた。4年ぶりの再会に言葉はなくただハグし合った。「NOBUYAのことは忘れられない。ただ一度会っただけなんだけどね」と2人。「オレたちは子供達に背中を見せて生きてるんだぜ!って子供のことをずっと熱く語っていたのが印象的でさ」とやす。私は「だからオレたちはさ、みんな生まれてくる時に自分と約束をしてきたんだよ!」と言っていたやすの言葉を思い出していた。「実は岐阜でアートショーを初めて見た時、あ、いつか絶対一緒にやってみたいってオレの中でひとつの夢になったの。」とやす。「だから今回のアートショーでオレととよちゃんが、ミュージシャンとして一緒に∀KIKOとコラボするってことは夢の実現でさ。最高に嬉しくてたまらないんだよ!」と。こんなにも喜んでくれてる人を前にして私も嬉しかった。とにかく本番前にこうして会って話せてよかったとお互いを確かめ合えた。NOBUYAの祭壇に手を合わす2人にNOBUYAの写真が微笑んでいるようだった。

「やっぱり本番前に一度、現地も下見に行きたいな」という願いを友達家族が叶えてくれた。NOBUYA号を運転してもらってDONも一緒に1泊2日の下見の旅へ。「よければテントを持参して焚き火を見ながら寝るのがおすすめですよ」とのこと。実際「夏至の宴」でも来場者はテント持参で宿泊可能なのでそのシミュレーションも兼ねてテント泊にすることにした。夕方現地に到着して明るいうちにテントを張り、古民家のお家の中へお邪魔した。当日はこの古民家の部屋のいくつかも展示会場になる予定だ。「はじめまして」「∀さんですか?」「はい。そうです」「わぁーよろしくお願いします!」やはりそれ以上言葉は必要なく、ただハグを交わし合った。かずととさきこ、立川夫妻に初めて出会った瞬間もなぜだか懐かしい感じがした。やすととよが笑顔で見守ってくれていた。私達のために用意してくれた夕食をみんなで美味しく頂く。DONもこの家の雰囲気をつかんで慣れてきたのかリラックスしていた。「この3日間は子供も大人も楽しめる場になればいいなと思っています。」「そうだねぇ。」この家の入り口にはご神木であるヒバの巨木「ぼくさん(立川夫妻がそう呼んでいる)」が鎮座している。泊まった朝、DONの散歩で近所を歩いてきてから、まだみんな寝てたのでぼくさんのそばで瞑想してインディアンフルートを吹き「お世話になります。どうぞよろしくお願いします」と挨拶をしてから写真を撮った。家に帰ってから見てみるとぼくさんの頭の方に輝く光のたまが写っていた。よく見るとお腹のあたりにも光を宿している。さきこととよにメールすると「まるで夏至の宴のチラシの∀の絵みたい!」と返事がきた。確かにそうだ!私にはぼくさんが受け入れてくれたような気がして嬉しかった。出発の時間になってさきこが言った「さっき一匹のトンボがぐるぐるあたりを回っていて、もしかしてNOBUYAさんかも」「ありえるねぇ」と私。別れ際、ぼくさんの横に2人並んでもらい、3人に改めて感謝の気持ちをこめてフルートを吹いた。

そして上野原に帰ってきてからしばらく経った頃、さきこからメールで「今こちらも夏至に向けて毎日準備しているのですが、やはり一匹のトンボがぐるぐるあたりを回っていて、かずとがNOBUYAさんに∀KIKOをよろしくな!と言われた気がしたと言ってました」とのこと(笑)。私は神様が用意してくださったこの夏至の宴を大切に味わっていこうと思ったのだった。

大丈夫よ。NOBUYAはただ楽しんで見ていてね。