「初めての絵の贈り物」

最近インタビューを受ける機会があり、「∀さんはいつ頃から絵を描き始めたんですか?」という質問を受けた。

「絵を初めて描いたのは「お絵描き」というものに出会った2才頃でその時から大好きで大好きで今まできています。」と答えたが、振り返ってみると実際私の人生はほとんど絵で彩られているのだなぁとしみじみ思った。それは母が絵を描くことが好きで幼稚園に上がる前から自転車の後ろに乗せられ川原で一緒に絵を描いていたという日常があり、8才から13才までの5年間病を患い病院に入院していた時も体の調子がいい時はベッドの上でいつも描いていたという日常があった。退院して故郷に戻り中学校に通っていた時も家では絵を描き、卒業式にNOBUYAに告白されて付き合うようになってから、私にとって彼への初めての心のこもった贈り物も絵だった。

その絵はその時からNOBUYAの部屋に飾られ、高校の3年間、別々の学校だったのでバス通学していた私は毎日途中下車してNOBUYAの家に立寄り一緒に過ごした彼の部屋で見る事になった。
高校卒業後、私達は北海道からともに東京へ出てきたがその絵はそのままNOBUYAの部屋に飾られて動かされず、ずっとその部屋にあり続けていた。亡骸になったNOBUYAと彼の実家に帰ってきた時そっとNOBUYAの部屋に入ってみると、やはりその絵はそのまま壁に飾られていて部屋も高校生の時のままだった。なんともいえない気持ちで絵を見つめ佇んでいると、先月亡くなったNOBUYAの母親代わりの叔母さんの「良子」ちゃんの声が後ろからした。「その絵、初めて伸也に贈ってくれた絵なんだってね。プレゼントされた時、家に帰ってきて自慢してたんだよ。本当はもうあきちゃんに返した方がいいのかもしれないけど、私達家族もずっとこの絵に慣れ親しんできたから、このままここに置いといてくれないかな?」と。「もちろんいいですよ。これはあげたものだし良子ちゃんがそう言ってくれるのは逆にとても嬉しいです。」と私は答えた。「そう?ありがとうね。」と良子ちゃん。

ところがそれから1年経った一周忌の法要の後、挨拶をしておいとましようとしたら突然「あきちゃん、これ持ってって。やっぱりあきちゃんが持ってた方がいいねって家族みんなでで話し合ったのよ。」と新聞紙と紐で丁寧に包まれた絵を渡されたのである。「あんたが初めて贈った絵なんだろ?伸也のためにも持ってってくれ。」とお父さん。「えっ……。」まさか贈った絵が35年後に自分のもとへと帰ってくるとは夢にも思わなかった。今の自分が15才の自分を見つめているような妙な感覚。この絵にこめた幼くも純粋な気持ち。それは裸の自分と向き合うようで照れくさくもあり、とても懐かしい思いがした。この時、何を思って描いたかはまったく覚えていないけれど絵の中の男の子と女の子は間違いなくNOBUYAと私なのだろう。そうして今はこの絵が寝室の壁に飾られ、私の生活を彩っているということがなんとも不思議でならないのである。

それ以来ふと視線を感じるたび、絵の中の2人が窓から覗いている世界はいったいどんなだろうと想像してみたりするのです。

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