「ミロク」

秋分から始まった、茶室「萩路庵」主催の個展が無事終了した。

駅から離れた山の中だったため、交通手段は車かタクシーという不便な場所での開催だったにも関わらず、なんとか辿り着いてくださったみなさま、本当にありがとうございました。秋分のARTSHOWも予約のメールアドレスの記載が違っていて開催一週間前に気づき、慌てて訂正。にも関わらず、当日はキャンセル待ちの方々がいらっしゃるまでに予約が一杯になりホッと安堵の気持ちで迎えた初日だった。

茶室での個展は初めての経験だったので、依頼のお話を頂き下見に行った際「さて、どうしようか」と思ったのが正直な気持ちだった。ギャラリーではないので飾れる場所は限られている。掛け軸などが掛けられている床の間ぐらいしかない。勿論、贅を尽くした秀麗な建築だけに釘を打ったりなど、どこも一切できないのだ。ただ、障子を外すと縁側の廊下が広々としていて、しだれ桜の見事な枝振りと見渡せる山々の景色がハッとするほど、なんとも粋で美しかった。「そうだ、ここにぴったりな作品がある。ここなら飾れる!」と瞬時に思いついたのは我が故郷、北海道余市の聖なる山「SIRIPA」の作品だった。これは左右が1mの絵を6枚合わせた大作ゆえ、なかなか展示できるスペースがなかったのだが、2枚1組の自立式なので立たせることができる。私にとってはこの山は心のふるさとであり、故郷を離れてからもいつでも思い出せる特別な景色だった。それは同郷であるNOBUYAにとっても同じだった。「久しぶりにSIRIPAを飾って、故郷とNOBUYAに思いを馳せる。そんな特別な個展になりそうだな」という予感がした。

そしてDMにも使用された「DANCE」の絵。これは庵主の「なおみ」が2年前に初めて現在の「nociw gallery」に来た際、一目惚れして額装の大きなプリントを購入して自宅に飾ってくれているもので、彼女のお気に入りの絵だった。これも原画は左右2mの大作で私のライフワークの1つである布に描く「FLAG」シリーズの1枚である。この絵を飾る場所は茶室内にはなかったが、玄関手前の庭の石段にある木の枝を使ってうまく掛けることができてちょうどピッタリと納まった。まるでここに飾られることになっていたかのように…..。そして訪れたお客様は思わず絵の前で柏手を打ったり、お辞儀をしてくぐって入って来られたのだった。

小さな床の間にはこのために新たに植物を描いた新作や、やはりライフワークの1つになっている木や石に描く作品を描き下ろした。毎日DONと散歩していて愛でては元気を貰っている稲や花々や木や石達…。そうして準備は忙しくも楽しく過ぎていった。描いて発表して誰かの元へと旅立ってゆき、また描く…そんな日常のサイクルがたまらなく愛おしい。絵描き冥利に尽きる我が人生である。

最終日の2日間に庵主から突然「簡単でいいので∀のお話会とインディアンフルートの演奏をしてもらえないか」と無茶振りされてしまった。1日目は「さわ会」のような感じでその場にいた方々とざっくばらんに話をしたのだが、最終日はなぜかピーンとした空気が茶室全体に漂い、終わったあとはみんなが号泣していたのだった(笑)。するとそこにいたお客様の1人が「∀さん、あの…実はNOBUYAさんからのメッセージが今きているんですけどいいですか?」とのこと。「えっ。は、はい」と私。「∀KIKO。オマエがいつも周りのみんなに感謝しながら生きていることをオレは誇りに思う」「……」突然のことで本当に驚いたが、いつも見守ってくれていることは感じていたので「やっぱりそうなんだなぁ」と改めて気づかされたとても印象に残る出来事だった。

今年はなぜか、春分、夏至、秋分が開催中に重なるという予定で個展のオファーがきた。一年の節目節目の特別な時期に個展を開催できるというのはとても幸せだった。3月、6月、9月と「ミロク」の月に。しかも今回来られたお客様の中に私のシンボルマークを見て「これって確かミロクのマークですよね?」と聞いてきた方がいらっしゃったのだ。「えっ。そうなんですか?」と新たな驚きと発見もありとても感慨深かった。

最後に「今回∀に展示して頂き、この場所もお客様もとっても喜んでいました。本当にありがとう」という庵主からの心のこもった言葉が何よりも嬉しかった。余韻が残る思い出深い個展に私からも、お越し頂いたお客様と主催してくださった萩路庵、そしてこんなにも素晴らしい茶室や庭園を創造した日本人の美意識に改めて感謝の気持ちで手を合わせたいと思います。

ありがとうございました。