「テント」

久しぶりのキャンプをした。

私とドンにとっては、昨年NOBUYAが旅立つ3日前に3人でキャンプをして以来のことで、あの時の感覚が再び蘇ってきて、とても美しくて不思議な時間を過ごした。
ARTGYPSY TOURはできるだけキャンプをしながら行こうというのが私達の考えだった。ドンにとってはそれが一番リラックスできるから。NOBUYAとの最後のツアーは特に
それが充実していた。ツアーに出る前の一ヶ月間、ちょうど今頃のNOBUYAは友達「浩平」の造園の仕事を毎日のように手伝っていた。毎日汗びっしょりでヘトヘトになって帰ってくる彼。
その夜は決まってビール片手にその日あった出来事をおもしろ可笑しく聞かせてくれるのだった。私はその話を聞くのを毎日楽しみにしていた。そんなにまで一生懸命働いて頂いたバイト料でNOBUYAが買ったのは自分の物ではなく、私やドンと一緒に過ごすためのテントだった。それまではテントしかり、キャンプ道具は極力少なく、なんでも小さくコンパクトにしていたのだが、NOBUYAはいつの日からかテントの中で過ごす時間をより快適にして3人で旅をもっと楽しもう!という夢を膨らませていたのだった。ネットで真剣な顔をしながらテントを探していた彼の横顔がまるで昨日のように浮かぶ。商品が届いた時は嬉しくて家の中で組み立て「ほーら。オレ達3人入っても全然広ーい!」とはしゃいでいたっけ…。

3人最後の旅は草津からスタートした。出発当日になって順路を突然変更した彼。草津はNOBUYAが大好きなところだった。なぜなら温泉があるから。ARTGYPSY TOURは温泉巡りツアーでもあったぐらい彼は本当に温泉が大好きだった。しかし初日からあいにくの雨。それでもバシッとテントを立て「ほーら。雨でも中では快適さ~!!」とハイテンションだった。確かに折りたたみの簡易ベッドを2つ並べたらそこは私達にとってホテルになった。「うん。すっごい快適だね。こんな雨の日にも最高に楽しめるねー!」とテントを褒めちぎったら満面の笑みで得意気だったなぁ。

北海道へ上陸してニセコの誰もいない所でもキャンプをした。昨年もやった所でドンも2度目だから覚えていた。ただ熊の気配は昨年同様漂っていた。私達は火を焚きNOBUYAは大地と酒を酌み交わし、私は笛を吹いて踊って祈りを捧げた。ドンは安心しきった様子で火のそばで寝転んでいた。「そうだ温泉に行こう!」と支度をしていつもの温泉に向かってみたらなんと定休日。「じゃこっそり露天に入ろう!」と彼は子供のような目をして私を誘った。ドキドキしながらも彼のあとについていって、ババッと脱いで隣に沈んだ。目を合わせると「この話は上野原まで持ち帰ろうぜ!」と彼は茶目っ気たっぷりにウィンクした。

札幌個展が始まる前も豊平峡温泉でキャンプをしていた。キャンパーは温泉に何度でも入っていいのが最高だった。そしてこの日も雨。「今回のこの雨の中でのキャンプは、このテントでよかったってことを証明してくれてるよなー」とNOBUYAは相変わらずご機嫌だった。翌日朝になってみると雨は降り止むどころか更に強くなっている。もう個展中に滞在予定の札幌の友達のところへ行ってもよかったのだが、なぜか彼は「今日最後にもう一泊だけしよう」と言ったのだ。私は温泉の受付にもう一泊する旨伝えに行った。その後にNOBUYAがちょうど温泉に入ろうと下駄箱のロッカーにいると受付のお姉さんが「ちょっとーみんな聞いてよー。あそこでキャンプしてる人達。このどしゃぶりの中でもう一泊だってーっ。変わってるよねーっ!!」と大声でスタッフに話してたそうでNOBUYAは思わずロッカーに身を隠してしまったと言っていた。(笑)

ニセコと札幌のキャンプの間は私達の故郷余市にあるそれぞれの実家で過ごす時間があった。その時NOBUYAは庭先でテントを干していたそうだ。ちょうど向かいのお家の「金澤さん」とそこで彼は初めて出会い「伸也です。よろしくお願いします!!」と元気一杯に挨拶をしたという。その金澤さんがたまたま地域の組長をされていたため、偶然にもなんとその1週間後のNOBUYAの葬儀の葬儀委員長を務めてくださったのだった。金澤さんは言っていた。「いやあの時会った印象が強くてね、楽しそうにテントを干していたから…..まさかこういうことになるとは本当に不思議なご縁です。」なんかとってもNOBUYAらしいよなぁと思うエピソードである。しかも自分で「よろしくお願いします!」ってちゃんと言ってるとこがね。(笑)

もうキャンプに行きたくても、車を運転できない私にはしばらくないかなーと思っていたら、ありがたくも今回、アーティスト夫婦「ソラオト」の「サユリ」と「ヒロ」が連れて行ってくれたのだった。
最後にNOBUYAが干して丁寧にたたんだテントを3人で広げた時に彼のぬくもりを感じた。そして8月27日のNOBUYAの一周忌に向けて「森の旅人」の「ケンタ」と「ナオ」の車に乗ってドンとともにツアーに出ることになった。2人の計らいで昨年、北海道まで渡ったのと全く同じルートでキャンプしながら進むことになった。その時もNOBUYAのテントに活躍してもらうからね!

素敵な最後の贈り物をどうもありがとう。愛をこめて。

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