「キムンカムイ」

伊豆は伊東にある一枚の板「かりゆし工房」10周年感謝祭に呼ばれARTGYPSY ARTSHOWをやってきた。

イベントの前日、北海道二風谷からやってきたアイヌのシャーマン「アシリ・レラ」さんがカムイノミをやった。かりゆしの「とし」がお店の裏を素敵に整えたその森で。
ちょうど一年前にここを訪れたときにとしは「ここはこうして、ああして」と沸き上がるイメージを語ってくれていたが本当にその通りになっていて、としも奥様の「みなこ」もとっても嬉しそうだった。聖なる火を起こしてその前で祈りを捧げるレラさん。そこでかりゆし工房の益々の発展を祈るとともにイチャルパという先祖供養がおこなわれた。木札に自分の名前と両親の名前を書く。そこで三代前までの先祖が供養されるという。実はこの同じ日の同じ時間帯にアーティストであった友人の告別式がおこなわれることになっていた。私はレラさんにお願いして私の先祖と一緒に友人も供養してもらえないかと頼んだところ、レラさんは快く承諾してくれた。木札に書いた名前を読み上げて火にくべる時にレラさんは「みんな、自分の札の時に写真を撮りなさい」と言った。その中に先祖が写るからだという。様々な形にゆらめく炎たち。女衆の最前列にいた私はその火に魅せられていた。今まさにおこなわれている友人の告別式と、このカムイノミとの共時性に不思議な思いを抱きながら座っていた。

イベント当日の朝、我が家のオオカミ犬「ドン」とともに私は昨日の森へ散歩にでかけた。6時頃だったからまだ薄暗く森は幻想的な雰囲気を漂わせていた。ふと私は気づいた。カムイノミの前と後とでは森の気がまるでちがうことに。あたりはすがすがしく澄んだ幸せな気に満ちていた。遊歩道の行き止まりの広場へ辿り着き、明けてきた空の美しさを仰いだ。その時、ガサッと遠くの方から音がした。ドンもなぜだかピクリともしない。いつもなら物音がすると一目散に駆けてゆくのに。じっと目をこらしてみると、どうやらそれはクマのようだった。私達にはまるで気づかないという風にゆっくりと横切ってゆく。ドンは他の獣だったらワンワンワンと吠え立てるのだが、この時は一言ワン!と吠えただけでくるっときびすを返し「帰ろう!」と言ったのだった。私はもちろん怖かったが、なぜかそれ以上に神聖な感覚を覚えていた。感謝祭は盛りに盛り上がった。10周年を祝いに来たお客様達の笑顔が溢れ、それを見てスタッフのみなさんの笑顔がこぼれ、本当に平和な時間が流れていった。

色んな素敵なライブの演目があって、ついにARTGYPSY ARTSHOWの出番がやってきた。ゲストアーティストはNYで活躍されてる伊東市民の「冨田有重」さん。有重さんとはこれで三度目のコラボでとても楽しみだった。そこに今回は助っ人で「あぱっち宮原」も参加してくれて嬉しかった。最初からこのARTSHOWは旅立った友人へ捧げるつもりでいた。まだホスピスにいる時に今度会いに行く時は、このARTSHOWでやる詩を読んで聞いてもらおうと思っていたのだ。彼女のお姉さんから「目も見えないししゃべれないけれど、耳は聞こえているのよ」と聞いていたから。だがその時間は残されていなかった。でもよく考えてみると、逆に体から自由になった魂は自在に行きたい場所へ瞬時に行くことができるのだ。「じゃあよかったら見にきてね!」という気持ちで私は祈りとともにARTSHOWをスタートさせた。するとしばらくして上の方からやけに視線を感じるのだ。見上げるとそれは私のよく知っている友人の笑顔だった。私はなんだか楽しくなっちゃって、自分の魂も解放されていくような爽快感のままやり遂げることができた。終了後、お客様からは「なんか今日のは特別すごくって全身に鳥肌が立ちました!」(笑)という感想をいただいた。

スタッフトイレに入るために二階にあがったら、珍しくそこにはレラさんだけが一人ぽつねんと居た。「レラさん。実は私、今朝オオカミ犬とこの森を散歩した時にクマを見たんです。」「そうだろう。」彼女は言った。「昨日この森でカムイノミをする時にクマが出るのが見えたんだ。ここにはクマはいないと信じてもらえなかったけどね。ちゃんとカムイがいたということだよ。」そうなのだ。このお祭りはカムイの愛に見守られていたのだな。大好きな家族が一同に集まった日。供養された先祖同士も、どこかでつながっていたのだろうなと自然に思えた。みなさん、ハーモニーをありがとう。感謝をこめて。

愛してます!