中今

高尾にあるゲストハウス「villa TAKAOSAN」にて衣のブランド「あすわ」とのコラボ展が開催となる。

高尾は今の上野原に越す前に、NOBUYAと長く暮らしていた馴染みのある土地だ。高校を卒業して北海道から東京に出て来たばかりの頃に彼は「東京に高尾山ていう山があるらしいよ。今度行ってみようぜ」と言ってきた。その時の私は「えっ!こんな田舎はいやだと、余市からはるばる東京に出てきたんじゃなかったっけ?」と思ったが、通ううちに、やはり自然の中で育った私達にとっては、とても落ち着く山になり都内から休みの度に訪れるようになった。でもまさか、高尾に住むことになるとは夢にも思わなかったのだが、これもまた不思議なご縁で最初のオオカミ犬nociwを迎える時に、野生の血が入った犬にとっては、自然が近い方がいいだろうと思い切って引っ越すことになった。そしてDONも高尾の家で生まれた。DON達兄妹が目をあけて最初に散歩をしたのが、高尾の森だったのである。その時のことは今でも忘れない…。

そうして何年かが経ち、高尾の南口に「TOUMAI」というお洒落なレストランができたという噂を聞いて行ってみた。そこで、いつもはお店にはいないというオーナーの「由紀さん」と初めて出会った。そして、初めましてなのに、後日レストランでごく少数の身内だけが集まるというディナーに招待して下さったのだ。それからはもう会うことがなかったのだが、2017年の夏にNOBUYAが突然旅立った際に由紀さんから贈り物が届いた。中にはお菓子と手紙が入っていて「NOBUYAさんの訃報を聞いて心からお悔やみ申し上げます。たったの二度会っただけなのに、私にはNOBUYAさんが強烈に印象に残っているんです。なぜなら、あんな笑顔をされる方に今まで出会ったことがなかったからです。あの笑顔を忘れることができません…。」と書かれていた。それから8年の月日が経った。そして今年に入って「あすわ」のデザイナー「てんき」から「∀とコラボレーションの展示会をしたい」と連絡がきたのだ。てんきにも実は8年振りに会うことになった。NOBUYAのお葬式に余市までやってきてくれたのが最後だったのである。その後、彼女も私に何て声をかけたらいいのか、自分に置きかえてみると辛過ぎて連絡ができなかったのだと言った。でも、ずっと思っていてくれたのだと…。そのてんきが展示会で毎年TOUMAIを会場にしていて、その敷地内に新たにvilla TAKAOSANができてからは会場をそちらに移していたとのことだった。それで由紀さんとも繋がっていたのだ。今回のコラボ展の企画をてんきが由紀さんに話した時は、由紀さんが本当に喜んでくださったと言っていた。それで1人で会場の下見に行った。そこには由紀さんが待っていてくれた。10年以上ぶりの再会だった。その間にも、由紀さんは度々私の「ひとりごと」の文章を読んでくれていたそうで、何度か上野原のギャラリーにも予約を入れて、会いに来ようとまでしてくれていたという。彼女もまた、ずっと思っていてくれたのだった…。「とにかく、泣けてくるわ」と言ってハグをしてくれて、しばらく私達は抱き合ったまま涙を流したのだった…。

そんな2人との久しぶりの再会となった、懐かしの土地での展示会。思い出のいっぱい詰まった高尾で、しみじみと、再び繋がれたこのご縁を味わいたいと思う。てんきがNOBUYAの旅立ち後、初めて迎えた私の誕生日に、贈ってくれた蘭の花は今でも毎年花を咲かせてくれる。その花の名は「ときめき」と書かれていた。今回の展示会のタイトルは「中今」だが、これは私の好きな神道の用語で過去でもなく、未来でもなく、今を賛美する言葉だが、そうやって二度とない今というこの瞬間を、常にときめいて生きていたいと思う。日々の生活に心から感謝しながら…。ありがとうございます。