7年振りにヴィパッサナー瞑想修行に行って来た。
7年振りとなったのは、7年前にNOBUYAが旅立ち、我が愛するオオカミ犬、DONという大きな命と2人家族となったため、DONを置いて行くわけにはいかなかったからだ。だが、そのDONも昨年末に長寿を全うして旅立ち、こうしてし久しぶりに行く機会を与えられたのだった。7年も間を空けたので相当苦しい修行になるだろうとは予想していたが、案の定かなり深いものとなった。まずはコースに参加する2日前に、突然右足の付け根が腫れ、激痛が走った。四国の旅から帰ってきたところだったから、旅の疲れが出たのだろうか?とその日は様子を見ていたが、参加前日、更に痛みは激しくなり、その範囲がすねにまで広がっていたのだ。「これはまずい。このままでは瞑想どころではなくなるかもしれない」という不安が急に襲ってきて、上野原に越して来て初めて病院へと行った。が、先生からは「特に病気などの心配はありません。痛み止めの薬を出しておきますのでしばらく様子を見てください」とあっさりと帰されてしまった。この状態で行くべきかキャンセルするべきか一瞬迷ったが、久しぶりにコースに参加することを、私の心は本当に望んでいたので行こうと決心した。「もしもコース中に耐えられなくなったら、その時は潔く帰ってこよう」と。そうして迎えた出発の朝、目覚めてみると、あれほどの痛みが嘘のように全く消えていたのだ。あれはいったい何だったのか?と不思議だったが、ともかく「よかった」と胸を撫で下ろし、家を出発し、センターで初日の夜を迎えた。すると、その夜中に今度は右腕の激痛で目を覚ましたのだ。右足の時と同じ尋常じゃない痛みだった。真夜中で辺りはしんと寝静まっていた。私は冷や汗をかきながら、とにかく持参したホメオパシーを飲み、びわの葉エキスを塗って一心不乱に祈っていた。「あぁ、4時には起床の鐘が鳴り、瞑想に入らねばならないのに、いったいこの先どうなるのだろう。もう無理だと判断したら、朝コースマネージャーに話さなければ…」そう思いながらいつの間にか眠りにつき、4時の鐘とともに飛び起きた。するとまたしても、痛みは跡形も無く消え去っていたのだ。その時、私はハッと気づいた「そうか、もう浄化が始まっていたのだ…。」そのことを理解して修行の1日目が無事スタートした。ところが今度は、あろうことか下痢が始まってしまったのだ。私は古い生徒なので食事は朝と昼の2度のみで、しかも食事は奉仕者の方々が愛をこめて作ってくださる体に優しい料理だ。瞑想に入るために自分では量も本当に控えめにしていたのに…。その状態は2日間続いて苦しかったが「これも浄化なのだ」と、もう既にわかっていたので「きっと大丈夫」と信じることができた。そうしながら瞑想を続けていると3日目にはピタッと止まり、その後は体調を崩すことはなかった。そのかわり、今度は心の中に溜め込まれた様々な感情が吹き出してきて、そこからが真の意味での修行となった。ヴィパッサナーではコースの間、聖なる沈黙を続けるので、その分心のおしゃべりが激しさを増し、それとともに出てくる感情に自分が圧倒されそうになった。
思えば私はNOBUYAの旅立ちの余韻を感じる間もなく、その死の直後から目の前のDONという命に対しての責任を一生懸命に果たそうと、ひたすらに努力し続けてきた。決して自分が倒れるわけにはいかないと気を張り続け、気づいてみれば7年間風邪も引いていなかった。だからこそ、そのDONと過ごした7年間は最高に幸せな時間となったのだった。そうしてDONが旅立った時、自分でも信じられないほど泣くことができた。そのことが私は嬉しかった。しかし、NOBUYAの時にはあまりにも急すぎて、まったく泣けなかったのだ。瞑想中に何度も何度も突然目の前で逝った、その瞬間のNOBUYAの顔が現れてきた。子供の頃の彼の顔や中学の卒業式に告白された時の顔、一緒に東京へ出て同棲をしていた頃のこと、DONの母親のオオカミ犬nociwが私達の元へ現れてから生活が一変した頃のこと、2人でARTGYPSYというユニットを結成し、全国をツアーで巡っていた時のこと、NOBUYAと片時も離れず過ごした35年分の記憶が走馬灯のように沸き上がってきては、ただただ涙が溢れ続けた。だが、それに捕われることなく心の平静さを保ち、今の体の感覚に気づいていくという、まさに今回は私にとっての大事な修行の機会となったのである。
だが、そんな私の状態を察するように、DONはいつもそばにいてくれていた。小さな緑色のカエルがいつでも目の前に現れてくれるのだ。歯を磨く時、トイレに入った時、洗濯物を干すとその上に止まり、目を閉じてすやすやと眠っている。いくら揺らしてもぐっすり眠っていて起きないのだ。「だから、僕だってば!」と言ってるかのように。そうして空を見上げると、雲がハッキリとDONの顔になっていた。口元に微笑を浮かべて。「大丈夫。見守っているからね」そう感じて心がとても温かくなった。その気配の中にはDONだけじゃなく、NOBUYAもnociwも一緒なのだ。と感じることができた。「そうだよね。いつもありがとう。私の大切な家族たち。愛しているよ…」そう心で呼びかけると、DONの雲が消えて、突然白く光った大きな一羽の鳥が空を横切って行った。「あぁ、これってNOBUYAっぽいよなー」と思い嬉しくなった。「∀KIKO、だから言ってるだろ。オレを信じろって」私は彼の口癖を思い出し、しばらく空を見て笑っていた。「今回来れて本当によかった…」私の心はこの上ない幸せで満たされていた。
この経験をさせてくださったダンマに、自然の法に深く感謝します。本当にありがとうございました。