2ヶ月ぶりとなる北海道への介護帰省から戻り、今、屋久島個展に向けて旅立ちの時を迎えている。
母が前回よりも、とても元気になっていたのが嬉しかった。できることも増えていて、笑顔も増えていた。前回はやらなかった体操と散歩も自然にやってくれて、朝の光を浴びながら、風を感じ、大地をともに踏みしめ「気持ちがいいね!」と声を掛け合える喜び。そんな、なんでもない普通の日常が愛おしく感じられた。私が一番感動したのは、前回乗り気がしないと言っていた、絵を描くことに母がやる気になったことだった。もともと母は、絵が好きで日常的に水彩画を描いたりしていた。それは私が子供の頃までのことだったが。詩も書いていたし、母が結婚する前はお茶やお琴などもたしなみ、踊りも好きで創作ダンスをし、洋服も好きで自分でデザインして制作し、自らモデルになってファッションショーをしたりもしていたのだ。今の私があるのは母の影響がとても大きいということである。
用意したのは手触りのいいスケッチブックと色鉛筆。これならば、気楽に手も汚れずに描けるだろうと考えた。最初はじっと白い紙を見つめているだけで、なかなか次に進めなかったが、そのうちゆっくりと思い思いに色鉛筆を手に取り出した。私はその所作のひとつひとつに、いちいち感動していた。母に沸き上がってくるインスピレーションに感動していたのだ。それこそ数十年振りに絵を描く母にとっては、当然ながら集中すると疲れるようなので「気分が乗った時に、少しづつ描けばいいんだよ」と声をかけ、無理なく楽しんでもらうのが一番だと思った。心が楽しんでいれば、体にもきっといい影響があるはずだから。私は、ただただ嬉しくて母の隣で絵を描いていた。今生において、こんな夢のような時間がやってくるとは想像もしなかったので本当に感謝した。私の18日間の滞在中、母は4枚の絵を描いた。興味深いのはそのすべてに海や山、鳥や蟹などのモチーフが描かれていることだ。やはり、生まれ育ったこの土地の自然が、母にとっての心象風景なのだと改めて認識できた。「絵って本当にいいなぁ」と胸が熱くなった。
現在、実家の目の前に家族で住んでいる「千尋ちゃん」も絵を描く人で、前回帰省した時に出会いお友達になった。その千尋ちゃんを紹介してくれたのが「伸栄」という友人で、余市で初めての個展やアートショーを企画してくれた恩人だ。彼女はもう1人「景ちゃん」という絵描きの子も紹介してくれ、私は余市に2人も絵描きの友達ができた。千尋ちゃんは今回、私を紹介したい方々がいると言って、移住して農園を始めた2組の家族に会わせてくれた。彼らは自然豊かな土地で日々を丁寧に生き、自給自足を目指した暮らしを営んでいた。子供達も動物達も一緒になって太陽の下ではしゃぎ回っている姿が美しかった。景ちゃんは余市の博物館で学芸員もしていたそうで、余市の歴史や伝説にも精通していて、とても勉強になった。高校卒業後、家を出て30年以上も経っている私にとって、今の故郷における、土地と人々の暮らしの変化がとても興味深く、いい刺激になった。NOBUYAも生きていたら、さぞかし驚き、喜んだことだろう。ほぼ毎日、私は私で散歩にでかけた。余市川を一時間ほどかけて、ぐるりと一周するコースが好きなのだ。ここは高校時代、NOBUYAとよく歩いた道でもあった。海も望め、大好きなシリパ山も見える。帰省した初日の朝、散歩にでかけると急に雨が降ってきて止んだ。すると目の前にダブルレインボーが現れたのだ。「わーっ!」思わず感動し、立ちすくんだ。NOBUYAが北海道ツアーで突然旅立った朝も、こうしてDONと同じ道を歩いていた。その時にもまったく同じように急に雨が降りだし、止んで目の前にダブルレインボーが現れたのだ。NOBUYAとDONのエネルギーを強く感じ、鳥肌が立った。今回の帰省が、素晴らしい実りのあるものになることを予感させた。そして、その通りになったのだった。
今年から介護という名目で帰省するようになったが、故郷で過ごすすべての時間が、自分の中のインナーチャイルドを見つめる、大きな癒しの時間であるということに気がついた。こうして毎回少しづつ、身も心も軽くなっていくのだろう。この1年頑張った自分へのご褒美が、7年振りとなる、12月の屋久島個展だ。とにかく、全身全霊で楽しみたいと思う。「感謝」としか言い表せないこの気持ちを、表現を通してみなさんにお伝えしていけたなら、こんな幸せなことはない。
今年も本当にありがとうございました。愛をこめて。